朝起きると、腕や首に強いかゆみのある赤い跡がいくつもできている。シーツに小さな黒いしみが点々とついている。こうしたときに疑われるのがトコジラミです。
「南京虫」とも呼ばれ、人の血を吸う小さな虫です。名前に「シラミ」とつきますが、シラミの仲間ではなくカメムシの仲間です。東京都などでは、近年相談が増えています。
本記事では、トコジラミの生態を客観的に解説します。
トコジラミとは?大きさ・見た目の基本情報
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 名称 | トコジラミ(別名:南京虫) |
| 学名 | Cimex lectularius |
| 分類 | 昆虫綱 カメムシ目 トコジラミ科 |
| 成虫の大きさ | 5〜8mm。褐色〜濃褐色 |
| 形 | 羽がなく、平たい楕円形 |
| 幼虫 | ふ化直後は約1.3mmで淡黄色。血を吸うと黒っぽくなる |
| 卵 | 乳白色の長円形で、長さ約1.2mm |
| 活動時間帯 | 主に夜間。人が寝ている間に血を吸う |
近い仲間に、熱帯地域に多いネッタイトコジラミ(Cimex hemipterus)がいます。国内では2015年に沖縄県で約80年ぶりに見つかり、その後、東京都や大阪府などでも確認されています。
トコジラミの生態|食性・成長・寿命
食性:血液だけを栄養にする
トコジラミの栄養源は血液だけで、オスもメスも、幼虫も成虫も血を吸います。1回の吸血は10分以上かかることも珍しくなく、20分に及ぶこともあります。成虫は平均して3〜5日ごとに吸血するとされています。
成長:5回の脱皮で成虫に
幼虫は5回脱皮して成虫になります。卵から成虫までの期間は温度によって大きく変わり、25℃で約40日、18℃で約125日、15℃で約237日かかります。
繁殖:生涯で数百個の卵を産む
メスはほぼ毎日、1日に5〜6個の卵を産み、生涯では約500個産むとされています(資料により200〜500個)。
寿命と絶食への強さ
成虫の寿命は、20℃で9〜18か月、27℃で3〜4か月です。血を吸わなくても長く生きられ、23℃でオス85日・メス69日、13℃では約1年、10℃では2年近く生きた記録があります。空き部屋になっていても、すぐにいなくなるとは限りません。
トコジラミが家に出る理由と広がり方
トコジラミは自分で長い距離を移動するよりも、人の荷物などと一緒に運ばれて広がると考えられています。
- 旅行先のホテルなどから、かばんやスーツケースに入りこんで持ち帰る
- 中古の家具や本に潜んでいたものが持ちこまれる
潜む場所
昼間は暗くて狭いすき間に隠れています。ベッドやマットレスのすき間や裏、カーテンの折り目、カーペットの下、ソファのすき間のほか、畳のすき間、壁紙の裏、コンセントの中に潜むこともあります。
トコジラミによる被害・影響
強いかゆみ
刺されると非常に強いかゆみが出て、寝不足になることもあります。かゆみは、トコジラミの唾液に対するアレルギー反応です。初めて刺されたときは、皮疹が出るまで2〜3日かかることがあります。
病気を媒介するか
現在までに、トコジラミが感染症を媒介したという報告はありません。ただし、かきこわしによる皮膚のトラブルや、睡眠不足などの影響が問題になります。
相談件数の増加
東京都の資料によると、都内の保健所などへのトコジラミの相談件数は、平成21年度の165件から増加傾向にあり、令和5年度には537件となっています。
トコジラミがいるサイン
| サイン | 見られる場所・特徴 |
|---|---|
| 血糞(けっぷん) | 黒いしみや黒い点々。ベッドのまわり、シーツ、マットレスの縫い目などにつく |
| 脱皮殻 | 幼虫が脱皮した抜け殻。すき間の近くに残る |
| 卵・死骸 | 乳白色の小さな卵や、虫の死骸 |
| 刺された跡 | 手足や首など、服から肌が出ている部分に赤い跡が並ぶ |
トコジラミの対策と予防
熱に弱い性質を利用する
トコジラミは熱に弱く、50℃なら30分、60℃なら10分で死ぬとされています。自治体の資料では、次のような方法が紹介されています。
- 衣類やシーツは、大型の熱乾燥機に詰め込みすぎずに20分以上かける
- 洗えるものは、81℃以上のお湯に5分以上つける
- スチームクリーナーで60℃以上の熱を10分以上当てる
- 掃除機で吸い取り、ゴミは袋に入れて密封して捨てる
市販の殺虫剤が効きにくいことがある
国内で問題になっているトコジラミの約90%が、ピレスロイド系の殺虫剤に抵抗性を持っているとされています。市販のスプレーに多いピレスロイド系は効きにくいのが現状で、有機リン系やカーバメート系、オキサジアゾール系の薬剤は有効とされています。
トコジラミは繁殖が早く、隠れる場所も多いため、見つけたら早めに専門業者に相談することが勧められています。
持ちこまないための予防
- 旅行先では、荷物をベッドの上や床に直接置かない
- 帰宅後は、荷物を玄関などで確認し、衣類はすぐに乾燥機にかける
- 中古の家具や寝具は、持ちこむ前によく確認する
トコジラミの豆知識|よくある誤解
「清潔な家には出ない」は誤り
トコジラミは荷物などと一緒に持ちこまれるため、部屋の清潔さとは関係なく発生することがあります。
「シラミの仲間」ではない
名前に「シラミ」とつきますが、分類上はカメムシの仲間です。髪の毛にすむアタマジラミなどとは別の虫です。
トコジラミの生存戦略|人のそばで生きる虫
トコジラミは、人が眠っている夜に現れて血を吸い、昼間はすき間に隠れて過ごします。平たい体は、わずかなすき間に入りこむのに向いています。
血を吸えなくても長期間生きられること、温度が高いほど早く成長して増えることも、人の住まいで生き残るための特徴です。
天敵と生態系での役割
トコジラミは主に人の住まいの中で暮らす虫です。住宅の中では天敵による数の調整が期待しにくいため、人による対策が中心になります。
人間との共適応|人の暮らしに依存した虫
トコジラミは人の血だけを栄養にし、人の荷物に紛れて移動する、人の暮らしに強く依存した虫です。現在国内で問題になっている集団の多くは、市販の殺虫剤に多いピレスロイド系に抵抗性を持っており、相談件数も増える傾向にあります。
建物診断の視点|トコジラミからわかる住まいの状態
トコジラミは建物の劣化が原因で発生する虫ではなく、外から持ちこまれる虫です。見つかった場合は、最近の旅行や来客、中古品の持ちこみがなかったかを振り返ることが、発生源をたどる手がかりになります。
ベッドのまわりの壁紙のはがれ、家具のすき間、コンセントまわりなどは潜み場所になりやすく、確認すべきポイントです。
トコジラミの危険度評価
※地域・環境により変動する相対的な目安です。
| 項目 | 評価 |
|---|---|
| 持ちこまれやすさ | ★★★★☆(荷物や中古品と一緒に入りこむ) |
| 繁殖力 | ★★★★☆(ほぼ毎日産卵し、生涯で数百個) |
| 定着力 | ★★★★★(すき間に潜み、長期間の絶食にも耐える) |
| 健康への影響 | ★★★☆☆(強いかゆみ。感染症の媒介は報告なし) |
| 建物への影響 | ★☆☆☆☆(建物自体を傷めることはない) |
| 駆除難易度 | ★★★★★(殺虫剤抵抗性があり、潜み場所が多い) |
イエダニ・ツメダニ・ノミとの見分け方
| 虫 | 刺されやすい場所・特徴 |
|---|---|
| トコジラミ | 手足や首など、服から肌が出ている部分。目で見える大きさ(5〜8mm) |
| イエダニ | 脇の下や下腹部など、服に隠れた部分を刺すことが多い |
| ツメダニ | 刺すが、血は吸わない |
| ノミ | 主にひざから下を刺される |
刺された場所と、ベッドまわりの血糞や脱皮殻の有無をあわせて確認すると、見分ける手がかりになります。
