川やため池のほとりで、大きなネズミのような動物が泳いでいる。田んぼの稲や畑の野菜が食べられ、土手に大きな穴が開いていた。こうした場面で見られるのがヌートリアです。
南米原産の大型の齧歯類で、日本には毛皮をとるために持ち込まれました。現在は特定外来生物に指定され、西日本を中心に分布しています。
本記事では、ヌートリアの生態を客観的に解説します。
ヌートリアとは?大きさ・分布の基本情報
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 名称 | ヌートリア |
| 学名 | Myocastor coypus |
| 分類 | 哺乳綱 齧歯目(ネズミ目)ヌートリア科 |
| 原産地 | 南米の中部〜南部 |
| 大きさ | 頭胴長50〜70cm、尾長35〜50cm(資料により幅がある) |
| 体重 | 6〜9kg |
| 寿命 | 野外では2年程度 |
| 活動時間帯 | 夜行性だが、昼間に活動することもある |
| 分布 | 福島県〜愛媛県の19府県に定着。西日本が中心で、特に中国地方に多く分布する |
| 法律上の扱い | 外来生物法の特定外来生物(2005年指定)。狩猟鳥獣にも指定されている |
日本に来た経緯
ヌートリアは明治末期に初めて日本に導入されました。1939年には150頭が輸入され、毛皮用、特に軍用として関東から西日本で多数飼育されました。1944年には全国で約4万頭が飼育されていたとされます。
戦後、毛皮の需要が大きく減ると、多くが野外に放され野生化しました。終戦直後と、1950年代の毛皮ブームの後に、野外への逸出が大規模になったとされています。
ヌートリアの生態|食性・繁殖・すみか
食性:水辺の植物と農作物を食べる草食
ヌートリアは草食で、ヒシ、マコモ、ヨシなどの水生植物の葉や地下茎を食べます。イネなどの農作物も食べ、貝類を食べたという報告もあります。
繁殖:年に2〜3回、多くの子を産む
決まった繁殖期はなく、年に2〜3回出産します。1回に産む子の数は2〜9頭(平均約6頭)で、多いときは12頭ほどという報告もあります。生後3〜10か月で繁殖できるようになり、短い期間で数が増えやすい動物です。
すみか:水辺の土手に巣穴を掘る
流れのゆるやかな川、湖、沼地を好み、泳ぎが得意です。土手に直径20〜30cm、深さ1〜6mの巣穴を掘ってすみかにします。
ヌートリアが人里に出る理由
ヌートリアは水辺を中心に暮らしますが、川や水路、ため池は田畑のすぐそばにあることが多く、エサになる稲や野菜を求めて農地に出てきます。水路が住宅地の近くを流れている地域では、家庭菜園の近くで見られることもあります。
ヌートリアによる被害・影響
農作物への被害
最も多いのはイネの被害で、ほかにスイカ、ブロッコリー、ダイコンなどの被害も報告されています。兵庫県の農業被害額は、令和4年度で約940万円とされています。
巣穴による被害
土手に掘られた巣穴によって、堤防、田んぼのあぜ、ため池が壊されることがあります。ため池の堤や、あぜの巣穴から水が漏れる被害も出ています。
在来の生き物への影響
水生植物を食べることで、水辺の環境が変わってしまうことがあります。兵庫県のため池では、在来種のベッコウトンボのすむ環境が壊されたことが報告されています。
人への危険
鋭い歯を持ち、かまれると大けがをすることがあります。国内でも、餌付けしようとしてかまれた例があります。動物から人にうつる感染症の危険もあるため、近づいたり触れたりしないでください。
ヌートリアがいるサイン
| サイン | 見られる場所・特徴 |
|---|---|
| 土手の巣穴 | 川やため池の土手。直径20〜30cmほどの穴 |
| 水辺の植物の食べ跡 | ヒシやヨシなどが食べられている |
| 農作物の食害 | 水路に近い田んぼの稲、畑の野菜 |
| 泳ぐ姿 | 川や水路を泳ぐ、大きなネズミのような動物 |
ヌートリアの対策と予防
自治体のマニュアルでは、侵入防止、捕獲、生息環境の管理を組み合わせて、続けて行うことが大切とされています。
- 高さ40〜50cmの侵入防止柵を設置する(下部にワイヤーメッシュやトタン板、上部に電気柵やネットなど)
- 餌付けをしない。ペットの残り餌を外に置かない
- 収穫しない野菜くずなどを畑に放置しない
捕獲には決まりがある
ヌートリアは特定外来生物のため、飼育、保管、運搬、販売、譲渡、野外に放すことが原則として禁止されています。捕獲は、外来生物法にもとづく防除や、鳥獣保護管理法にもとづく有害捕獲・狩猟によって行われます。
自治体が防除の計画を立てて捕獲を進めている地域もあります。姫路市もアライグマとあわせた防除の実施計画を定めています。見かけたときや被害があるときは、お住まいの市町村に相談してください。
ヌートリアの豆知識|見分けるポイント
オレンジ色の前歯
ヌートリアの大きな特徴は、オレンジ色の前歯(門歯)です。
水かきのある後ろ足と、毛の少ない細い尾
後ろ足には水かきがあり、泳ぐのに適しています。尾は毛がほとんど生えておらず、平たくない円筒形をしています。
ヌートリアの生存戦略|繁殖力で数を増やす
野外での寿命は2年程度と短いものの、決まった繁殖期がなく年に2〜3回出産し、1回に平均6頭ほどの子を産みます。生まれた子も数か月で繁殖できるようになるため、短い期間で数を増やすことができます。
水辺に巣穴を掘って暮らし、泳いで移動できることも、川や水路づたいに分布を広げられる理由の一つと考えられます。
生態系での位置付け
ヌートリアは本来日本にいない外来種で、水生植物を食べることで在来の植物や、それに頼って生きる生き物に影響を与えます。環境省の「生態系被害防止外来種リスト」(2026年9月改定)では、防除推進外来種とされています。
人間との共適応|人が持ち込み、人が向き合う外来種
ヌートリアは、毛皮をとるために人が日本に持ち込み、需要がなくなると野外に放された動物です。現在の被害は、人の都合で始まった問題ともいえます。
兵庫県での捕獲数は、平成30年度の762頭から令和4年度には1,226頭に増えています。地域ぐるみの防除が続けられています。
建物・土地診断の視点|ヌートリアからわかる周辺環境
ヌートリアは家屋に入りこむ動物ではありませんが、土地や周辺環境を見るうえで手がかりになります。近くの水路やため池の土手に巣穴があると、あぜや堤が弱くなり、水漏れや崩れにつながるおそれがあります。
水辺に近い土地で家庭菜園や田畑を管理している場合は、柵の設置や、土手に穴がないかの見回りが被害を防ぐうえで役立ちます。
ヌートリアの危険度評価
※地域・環境により変動する相対的な目安です。
| 項目 | 評価 |
|---|---|
| 人里への出没 | ★★★☆☆(水辺に近い農地に出る) |
| 繁殖力 | ★★★★★(年2〜3回、1回に平均約6頭) |
| 定着力 | ★★★★☆(土手に巣穴を掘ってすみつく) |
| 人への危険 | ★★★☆☆(かまれると大けがのおそれ) |
| 土地・施設への影響 | ★★★★☆(堤防・あぜ・ため池の巣穴被害) |
| 駆除難易度 | ★★★★☆(特定外来生物としての規制、継続的な防除が必要) |
ドブネズミとの見分け方
| 動物 | 見分けるポイント |
|---|---|
| ヌートリア | 体重6〜9kgと大きい。前歯がオレンジ色。後ろ足に水かき。泳ぎが得意 |
| ドブネズミ | ヌートリアよりずっと小さい。前歯がオレンジ色ではなく、後ろ足に水かきがない |
水辺で見かける大きなネズミのような動物は、オレンジ色の前歯と水かきのある後ろ足を確認すると、ヌートリアかどうか判断しやすくなります。
