ワモンゴキブリは、体長3〜4cmにもなる大型のゴキブリです。胸に黄白色の輪のような模様があり、「輪紋(わもん)」の名前はここから来ています。
もともとは暖かい地域のゴキブリですが、暖房のあるビルの地下や下水を通じて、本州の大都市でも見つかっています。この記事では、自治体・大学の資料や学術論文で確認できた事実をもとに、ワモンゴキブリの見分け方と生態、対策を解説します。
ワモンゴキブリの基本情報
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 和名・学名 | ワモンゴキブリ(Periplaneta americana) |
| 英名 | American cockroach(アメリカゴキブリ) |
| 大きさ | 約3〜4cm(名古屋市・千葉市)。5cmを超える記録もある |
| 色・模様 | 赤褐色〜黄褐色でつやがあり、胸の縁に黄白色の輪の模様 |
| 原産 | アフリカ |
| 日本での分布 | 沖縄・奄美・九州南部・四国など。暖房のあるビルでは東京・札幌でも確認 |
| 成虫の寿命 | 約1年(フロリダ大学) |

見分け方|胸の「輪」の模様が目印
名古屋市によると、ワモンゴキブリは胸の背中(前胸背板)の縁に沿って黄白色の輪の模様があり、これでクロゴキブリと区別できます。千葉市も、黄褐色でつやがあり、胸に淡い黄白色の輪の模様があると説明しています。
フロリダ大学(UF/IFAS)の資料では、オスの翅は腹の先より4〜8mm長く伸び、メスの翅は腹の先を超えません。またオスにだけ、お尻の先に短い突起が1対あります。
幼虫は、孵化した直後は白っぽく、すぐに灰色がかった茶色に変わります。3〜4回目の段階(齢)になると、背中に翅のもと(翅芽)が見えてきます(UF/IFAS)。
生態|暖かさが必要な大型のゴキブリ
寒さに弱く、高い温度が必要
名古屋市は、ワモンゴキブリはクロゴキブリより高い温度を必要とすると説明しています。大森南三郎氏の総説(1982年)では、終齢の幼虫は5.5℃では40日以内に死に、20℃では卵を産まないと報告されています。
このため日本では、沖縄・奄美・九州南部など暖かい地域が中心です。それ以外の地域では、1年中暖かさが保たれているビルやホテルの厨房、地下の機械室などで見つかります。名古屋市は東京などの大都市や名古屋市内での発見を、千葉市は東京や札幌の暖房のあるビルでの確認を挙げています。
卵から成虫、寿命
UF/IFASの資料によると、メスは16個ほどの卵が入った卵鞘(らんしょう)をほぼ月に1個のペースでつくり、一生で9〜10個を産みます。卵が孵化するまでは約6〜8週間、幼虫の期間は6〜12か月で、その間に6〜14回脱皮します。成虫は長いもので約1年生き、メス1匹が一生に残す子は平均150匹とされています。
| 段階 | 目安 | 出典 |
|---|---|---|
| 1つの卵鞘の卵数 | 約16個(10〜20個とする資料も) | UF/IFAS・大森1982 |
| 一生の卵鞘の数 | 9〜10個 | UF/IFAS |
| 孵化まで | 約6〜8週間(30〜49日とする資料も) | UF/IFAS・大森1982 |
| 幼虫の期間 | 6〜12か月 | UF/IFAS |
| 成虫の寿命 | 約1年 | UF/IFAS |
チャバネゴキブリ(卵から成虫まで2〜3か月)と比べると、ワモンゴキブリは一世代が長いゴキブリです。
メスだけでも増えられる
北海道大学の研究(Katohら、Zoological Letters 2017年)では、交尾していないメスでも卵鞘をつくって子を生む「単為生殖」が確認されました。メスを3匹より多い集団で飼うと産卵が早まってそろい、未交尾のメス15匹の集団は3年以上にわたってメスの子を生み続けたと報告されています。
研究でも注目される昆虫
2018年には、ワモンゴキブリの全ゲノムが解読されました(Liら、Nature Communications)。ゲノムの大きさは約33.8億塩基対で、成長が速く子を多く残す昆虫として、環境への適応や体の再生のしくみの研究に使われています。
どこにいて、どこから来るのか
下水や地下の排水まわりが主なすみか
UF/IFASによると、ワモンゴキブリの主な住みかは建物の地下室、下水、蒸気トンネル、排水系統で、1つのマンホールに5,000匹以上がいた例もあります。
日本でも、福岡市道路下水道局は、下水道管の中は外気より暖かく害虫が自由に移動できるため、ゴキブリなどがすみつくことがあると説明しています。一方で、下水道管の中で薬剤を散布すると家庭の配管を通じて健康被害が出るおそれがあるため、管内での薬剤散布は行っていないとしています。

原産はアフリカ、交易で世界へ
UF/IFASによると、ワモンゴキブリはアフリカ原産で、1625年にはアメリカに持ち込まれ、船による交易とともに世界中に広がりました。「アメリカゴキブリ」という英名ですが、アメリカ原産ではありません。
被害|衛生面のリスク
UF/IFASの資料では、野外で採集したワモンゴキブリから、病気の原因となる細菌・ウイルス・カビ・原虫が少なくとも22種、寄生虫が5種見つかっています。下水や排水まわりと台所を行き来するため、食品や食器に触れると衛生上の問題になります。
日本の自治体の資料では、ゴキブリ全般について、病原体を運ぶことやアレルギーの原因になることが説明されています(川崎市・新潟市)。
対策と予防
UF/IFASは対策として、地面に近い壁の配管が通る部分の隙間をコーキングでふさぐこと、建物のまわりの腐った落ち葉や湿った場所を減らすことを挙げ、粒状の毒餌が非常に効果的だとしています。
下水とつながる排水まわりから上がってくることがあるため、使っていない排水口のふたや、配管が床や壁を通る部分の隙間を確認してください。屋内では、通り道への毒餌の設置と、粘着トラップでどこから来ているかを確かめることが基本です。
なお同じ資料は、殺虫剤がワモンゴキブリの天敵である寄生バチまで殺してしまうことがある、とも指摘しています。
もっと知りたいワモンゴキブリの話
下水道の普及で北へ広がった
京都市の衛生動物の事例資料によると、ワモンゴキブリは熱帯原産で寒さに弱く、京都市内の木造の家では冬を越せずに死んでしまいます。ところが下水道が普及すると、冬でも暖かい下水道の中やビルの汚水ピットで越冬できるようになり、京都市内でも珍しくなくなりました。
同じ資料には、学校などの給食施設で「ネズミのふんがある」「殺そ剤にかじった跡がある」という相談を調べたところ、実際は4cmを超えるワモンゴキブリの仕業だった、という事例も紹介されています。大型のため、ふんや食べ跡がネズミと間違えられることがあるのです。
昆虫でもトップクラスの速さで走る
カリフォルニア大学のFull氏とTu氏の研究(Journal of Experimental Biology 1991年)では、ワモンゴキブリの最高速度は秒速約1.0〜1.5m、体長の約50倍に達しました。最も速いときには、およそ半分の走りで後ろの2本の脚だけで走り、一歩ごとに体が宙に浮いていたと報告されています。
お尻の毛で風を感じて逃げる
ワモンゴキブリのお尻には、尾毛と呼ばれる一対の毛のような器官があります。北海道大学の研究によると、尾毛で空気の流れを感じ取り、神経がその向きを見分けて、敵が近づいてくる方向と反対へ逃げます。後ろから手を近づけても素早く逃げられるのはこのためです。
ごくわずかなフェロモンでメスを探す
2024年に福岡大学・北海道大学などのグループが発表した研究では、オスは1兆分の1グラム単位のごくわずかな性フェロモンを感じ取ります。主な成分(ペリプラノンB)はメスを探して近づく行動を起こし、もう一つの成分(ペリプラノンA)はその行動を抑えます。遠くでは引き寄せられ、近くではメスのそばにとどまるという、二つの成分の使い分けが考えられています。
他のゴキブリとの見分け方
| 種類 | 大きさ | 見分けるポイント |
|---|---|---|
| ワモンゴキブリ | 約3〜4cm | 赤褐色で胸に黄白色の輪の模様 |
| クロゴキブリ | 約3〜4cm | 黒褐色でつやが強く、輪の模様はない |
| ヤマトゴキブリ | 約2〜3.5cm | 黒褐色でつやが少ない、メスの翅が短い |
| チャバネゴキブリ | 約1〜1.2cm | 黄褐色で胸に黒い縦線2本 |
よくある質問
- 本州にもいますか?
-
暖かい地域が中心ですが、千葉市によると暖房のあるビルでは東京や札幌でも確認されています。名古屋市も市内での発見を挙げています。
- クロゴキブリとどう見分けますか?
-
胸の背中の縁にある黄白色の輪の模様が目印です(名古屋市)。クロゴキブリにはこの模様がありません。
- メスだけで増えるというのは本当ですか?
-
北海道大学の研究で、交尾していないメスでも子を生む単為生殖が確認されています(Katohら2017)。
- 下水から上がってくるのですか?
-
フロリダ大学の資料では、下水や排水系統が主な住みかとされています。福岡市も、下水道管の中は暖かく害虫が移動できると説明しています。
まとめ
ワモンゴキブリは、胸の黄白色の輪の模様が目印の大型のゴキブリです。寒さに弱く、暖かい地域や暖房のあるビルの地下、下水まわりにすみ、メスだけでも増えることができます。配管まわりの隙間をふさぎ、毒餌とトラップで通り道を押さえることが対策の基本です。ゴキブリ全体の対策はゴキブリ駆除の方法まとめ、スプレーの選び方はゴキブリ駆除スプレーのおすすめもあわせてご覧ください。
出典
- 名古屋市「ゴキブリ類」
- 千葉市「ゴキブリの生態と防除方法」
- 川崎市「ゴキブリ」(PDF)
- 福岡市道路下水道局「下水道管の害虫(ゴキブリなど)への対策について」
- UF/IFAS “American Cockroach, Periplaneta americana”(PDF)
- UF Entomology “American cockroach”
- Katoh et al. (2017) Zoological Letters 3:3(北海道大学HUSCAP)
- Li et al. (2018) Nature Communications 9
- 大森南三郎「ゴキブリ類の分類,生理,生態と駆除」(1982、PDF)
- 京都市 保健福祉局 衛生動物の事例資料(PDF)
- Full & Tu (1991) Journal of Experimental Biology 156:215-231(PDF)
- 松本茂・水波誠「電位感受性色素によるワモンゴキブリ最終腹部神経節の光学的計測」(1998、北海道大学、PDF)
- 北海道大学プレスリリース(2024年5月15日、PDF)
