夕方、家のまわりをひらひらと飛ぶ小さなコウモリ。市街地で見かけるコウモリのほとんどはアブラコウモリです。日本のコウモリで唯一、人の家を住みかにする種で、「イエコウモリ」とも呼ばれます。
屋根や壁のすき間に入り込み、ふんや尿のにおいで困っているという相談が多い動物ですが、法律で守られていて、勝手に捕まえることはできません。この記事では、自治体・国の機関・大学の資料で確認できた事実をもとに、アブラコウモリの生態と、家に住みつかれたときの正しい対処を解説します。
アブラコウモリの基本情報
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 和名・学名 | アブラコウモリ(Pipistrellus abramus)。別名イエコウモリ |
| 大きさ | 頭胴長4〜6cm、前腕長3〜3.7cm、体重5〜10g(国交省・前橋市) |
| 活動時期 | 3〜10月。冬は冬眠(おおむね11月〜3月) |
| エサ | カ・ユスリカ・ガ・甲虫などの小さな昆虫 |
| すみか | 家の壁の中、瓦の下、天井裏、戸袋、ビルの通風口 |
| 出産 | 7月ごろに1〜4頭 |
| 寿命 | 最長でオス3年・メス5年の記録(船越2020) |
| 法律 | 鳥獣保護管理法で保護。許可なく捕獲できない |

見分け方と体の特徴
国土交通省筑後川河川事務所の資料では、アブラコウモリは前腕の長さ3.0〜3.7cm、頭から胴の長さ4.1〜6.0cm、尾の長さ2.9〜4.5cm、体重5〜10gとされています。翼を広げてもてのひらほどの、とても小さなコウモリです。前橋市は、日本のコウモリで唯一、人家を住みかにする種だと説明しています。
同じように家に入ることがあるコウモリに、キクガシラコウモリがいます。愛知県のレッドデータブックによると、キクガシラコウモリは体重17〜35gとアブラコウモリより大きく、鼻のまわりに菊の花のような「鼻葉」があります。主に洞窟やトンネルで休みますが、家屋を使うこともあります。
超音波で周りを探りながら飛び、環境省の調査資料では主な周波数は約45kHzとされています。人の耳には聞こえない高さです。
一年の暮らし
九州大学の船越公威氏と内田照章氏は、1973〜1976年に福岡市内の家屋にある25か所のねぐらを調べました。この調査と国土交通省筑後川河川事務所の資料をもとにまとめると、アブラコウモリの一年は次のようになります。
| 時期 | 様子 |
|---|---|
| 3月中旬〜 | 冬眠から目覚めて活動を始める |
| 5〜9月 | 日没の平均12分後に飛び立つ |
| 6月下旬〜7月上旬 | 出産。1回の平均は2.3頭 |
| 10月ごろ | 交尾(受精は翌年の春) |
| 11月上旬〜3月中旬 | 冬眠(2月下旬までは深い眠り) |
同じ調査では、春から夏の群れの大きさは平均20頭(4〜36頭)で、100頭を超えることはまれでした。京都市の資料も、多いときは100頭前後の群れになると説明しています。
国交省筑後川河川事務所によると、交尾は10月ごろですが、排卵と受精は翌年の4月ごろで、7月上旬に家の中で出産します。秋に交尾してから出産まで、半年以上の間があるのが特徴です。
気温で飛び立ちが変わる
船越氏らの調査では、気温が15℃以下だとほとんど飛び立たず、20℃を超えるとほぼすべての個体が飛び立ちました。国交省の資料も、冬でも暖かい日は飛ぶことがあるとしています。
何を食べているのか|蚊を食べる益獣
国交省筑後川河川事務所によると、アブラコウモリは日没後に公園や河川、ため池など開けた場所でエサをとり、主な食べ物はカやユスリカです。前橋市は一晩に300〜500匹の虫を食べるとしています。京都市の資料では、1日に体重の30%もの虫を食べるとされています。
船越氏らがふんを調べた研究では、夏はガと甲虫が中心で、春先と秋はハエ・カの仲間が中心でした。獲物の多くは体長15mm以下の小さな虫です。
同志社大学などの研究(2016年)では、アブラコウモリは目の前の獲物だけでなく次の獲物にも超音波を向け、続けて捕まえやすい飛び方を選んでいることがわかりました。捕まえる間隔は短いと1秒もかかりません。
家に住みつかれたときのサインと被害
1cmほどのすき間から入る
浜松市は、1cmほどのすき間があればコウモリは出入りできるとしています。前橋市は、窓やドアのすき間、換気口、エアコンの配管のすき間、屋根と壁のすき間を侵入口に挙げています。

ふんでわかる
京都市の資料によると、アブラコウモリのふんは長さ7〜8mmほどのいびつな円柱形で茶褐色です。中身はほとんど昆虫の破片で、水やアルコールで溶かすと虫の目や毛が見えます。ネズミのふんには虫の破片が少なく、たいてい毛が混じっているため、溶かしてみると見分けられます。
外壁の同じ場所の下にふんがたまっていたら、その上のすき間がねぐらの出入口である可能性が高いです。
主な被害はふん尿のにおいとしみ
京都市は、被害の中心はふんや尿のにおいと、しみだとしています。病気については、前橋市が、国内でコウモリが直接の原因となった発症例は現在報告されていないとしたうえで、海外ではふんの中のカビを吸い込んだ感染例があると説明しています。神奈川県は、感染症のおそれがあるため素手で触らないよう呼びかけています。
宮崎県では2020年、コウモリに寄生するダニ(コウモリマルヒメダニ)に人が刺された例が初めて確認されています(衛生動物 2023年)。
法律|勝手に捕まえてはいけない
コウモリは鳥獣保護管理法で守られている野生動物です。鳥取県は、野生の鳥獣は原則として捕獲などが禁止されていて、例外はドブネズミ・クマネズミ・ハツカネズミと海の哺乳類だけだと説明しています。コウモリは保護の対象です。
浜松市は、コウモリの捕獲には許可が必要だとしています。相模原市は、被害を出している個体に限り、県や市の許可を受けて捕獲できるとしています。茨城県つくばみらい市は、許可なく捕獲・殺傷すると罰則があると案内しています。
正しい追い出し方と、すき間のふさぎ方
ふさぐ時期を選ぶ
浜松市は、子どものいる6〜8月と冬眠の前後は、すき間をふさぐのを避けるよう案内しています。京都市も、7月初めから8月中旬の繁殖期は避けるとしています。北九州市は、冬眠期と夏の出産期は追い出しが難しいため、それ以外の時期に対策するよう勧めています。
いないときにふさぐ
浜松市は、コウモリがいない時間にすき間をふさぎ、中に取り残さないよう注意を呼びかけています。中に残すと死骸がにおいや害虫の原因になります。京都市は、夜にコウモリが出ていったあとでふさぐ方法を紹介しています。
ふさぐのは1cmのすき間でも入れる相手です。私たちは、ふんがたまっている場所の真上を中心に、屋根と壁の取り合い、換気口、配管のまわりを金網やシーリングで確実にふさぐことをおすすめしています。高い場所の作業は危険なため、無理をせず業者に相談してください。
よくある質問
- 自分で捕まえてもいいですか?
-
鳥獣保護管理法により、許可なく捕獲することはできません(浜松市・相模原市)。追い出してすき間をふさぐ方法をとってください。
- いつふさげばいいですか?
-
子育ての6〜8月と冬眠の前後は避けます(浜松市)。夜にコウモリが出ていったあと、中にいないことを確かめてからふさぎます(京都市)。
- 何cmのすき間から入りますか?
-
約1cmのすき間があれば出入りできるとされています(浜松市)。
- ふんから病気がうつりますか?
-
国内でコウモリが直接の原因となった発症例は報告されていません(前橋市)。ただし素手で触らず、掃除はマスクと手袋をして行ってください(神奈川県)。
- ネズミのふんとの見分け方は?
-
アブラコウモリのふんは水やアルコールで溶かすと虫の破片ばかりになります。ネズミのふんには毛が混じります(京都市)。
まとめ
アブラコウモリは体重5〜10gの小さなコウモリで、日本で唯一、人の家を住みかにします。一晩に数百匹の虫を食べる一方、1cmのすき間から家に入り、ふんや尿のにおいの原因になります。法律で守られているため捕まえることはできず、子育ての時期を避けて、コウモリが出ていったあとにすき間をふさぐのが正しい対処です。キクガシラコウモリの生態もあわせてご覧ください。
出典
- 国土交通省九州地方整備局 筑後川河川事務所「アブラコウモリ」
- 前橋市「コウモリについて 市街地にも姿を現します」
- 浜松市「コウモリによる被害」
- 京都市 衛生相談事例 No.59(PDF)
- 京都市 衛生相談事例 No.27(PDF)
- 鳥取県「野生鳥獣の捕獲について」
- 相模原市 よくある質問
- つくばみらい市「コウモリを見かけたら」
- 北九州市「コウモリ」
- 神奈川県「野生鳥獣Q&A」
- Funakoshi & Uchida (1978) 九州大学農学部学芸雑誌23:95-115(PDF)
- 船越公威(2020)Nature of Kagoshima 47:187-190(PDF)
- JST・同志社大学プレスリリース(2016年4月12日)
- 成田ほか(2023)衛生動物74(3) コウモリマルヒメダニ刺症例(PDF)
- 愛知県「レッドデータブックあいち」キクガシラコウモリ(PDF)
