赤い頭に黒くつやのある胴体、たくさんの脚。家の中で見つけるとぎょっとする大きなムカデの多くは、トビズムカデです。日本のムカデの中でも大型で、咬まれると激しい痛みがあります。
この記事では、日本中毒情報センター、自治体、大学の資料で確認できた事実をもとに、トビズムカデの見分け方と生態、家に入る理由、咬まれたときの応急処置を解説します。
トビズムカデの基本情報
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 和名・学名 | トビズムカデ(Scolopendra mutilans)。S. subspinipes の亜種、または同じ種とする見解もある |
| 大きさ | 最大15cmほど(名古屋市)。広島大学は最大15〜20cmとしている |
| 色 | 頭は鳶色(茶褐色〜赤褐色)、胴は黒っぽい。脚は黄色または赤色 |
| 分布 | 本州・四国・九州・沖縄(広島大学デジタル博物館) |
| 活動 | 春〜秋。夜に活動する |
| エサ | 昆虫などの小さな動物。肉食の傾向が強い |
| 成長 | 成体になるまで約3年(名古屋市) |

見分け方|名前の由来は頭の「鳶色」
トビズムカデの「トビズ」は「鳶頭」、つまり頭が鳶色(とびいろ)であることに由来します。名古屋市は頭部が茶褐色から赤褐色の「とび色」、広島大学デジタル博物館は名前の由来どおり鳶色だと説明しています。飛ぶように速いから、という由来ではありません。
脚の色は個体によって違い、黄色い型と赤い型がいます。京都大学の研究(2026年)では、トビズムカデの赤い脚の型と黄色い脚の型は全国で一緒に暮らしていることがわかりました。
アオズムカデとの見分け方
よく似たムカデにアオズムカデがいます。広島大学デジタル博物館は、見分け方として次の3点を挙げています。
| 比べる点 | トビズムカデ | アオズムカデ |
|---|---|---|
| 頭の色 | 鳶色(赤褐色) | 胴と同じ色(暗い青色) |
| 後ろから2番目の脚 | かかと付近に小さなとげがある | とげがない |
| 大きさ | 最大15〜20cm | 8〜12cm |
同じ資料は、トビズムカデの幼体は頭が鳶色でないことがあり、色だけでは見間違えると注意しています。後ろから2番目の脚(第20歩脚)のとげを見るのが確実です。名古屋市はアオズムカデについて、頭が暗い青色で体長10cm前後としています。詳しくはアオズムカデの生態をご覧ください。
生態|夜に狩りをし、母親が卵を守る
夜行性の肉食
名古屋市によると、トビズムカデは夜に活動して昆虫などの小さな動物をとらえ、昼は石の下などに隠れています。川崎市は、昆虫やゴキブリを捕まえて食べるとしています。広島大学デジタル博物館は、肉食の傾向が強い雑食で、死骸も食べ、樹液や植物の実を食べている姿の目撃例もあると説明しています。
同じ資料によると、目はほとんど退化していて、触れたものの刺激で獲物を見つけます。何も食べなくても1か月以上生きられます。
メスは卵と子を抱いて守る
広島大学デジタル博物館によると、繁殖期は5〜6月の梅雨のころで、メスは湿った暗い場所に40〜50個の卵を産みます。メスは卵を体で囲んでなめ、乾燥から守ります。子が自分でエサをとれるようになるまで守り続け、その間は何も食べず、子にエサを与えることもありません。外敵や乾燥で子育てに失敗すると、卵を食べてしまうこともあります。
名古屋市は、卵を腹の下に抱えて守り、成体になるまで3年かかるとしています。川崎市の資料では、産卵期は5〜8月ごろです。
毒のはたらき
中国科学院昆明動物研究所の研究(PNAS 2018年)は、トビズムカデの毒から、神経や筋肉の電気信号に関わる「カリウムチャネル」をふさぐ物質を見つけました。この物質のはたらきで、自分よりはるかに大きな獲物でも短時間で動けなくなるとされています。名古屋市は、毒からヒスタミンやセロトニン、タンパク質を分解する酵素が見つかっていると説明しています。
家に入る理由と、咬まれやすい場面
川崎市は、エサのゴキブリを求めて屋内に入ることがあるとしています。日本中毒情報センターも、夜にエサを求めて屋内に入ると説明しています。堺市によると、ムカデは湿った狭く暗い場所を好み、草むら、落ち葉の下、石垣のすき間、庭石やブロック、プランターの下に潜んでいます。

日本中毒情報センターに2019〜2023年に寄せられたムカデに咬まれた相談93件を見ると、多いのは9月(29件)と8月(23件)でした。時間帯は18〜24時が35%、0〜6時が32%で、夜の間に約3分の2が集中しています。寝ている間に手の指や首元を咬まれる例や、靴の中にいたムカデに足の指を咬まれる例が典型です。
咬まれたときの症状と応急処置
症状
日本中毒情報センターによると、咬まれた直後から激しい痛みがあり、赤く腫れます。痛みは通常、数時間以内に良くなります。MSDマニュアルは、症状が48時間以上続くことはまれだとしています。名古屋市は、激しい痛みや腫れ、発熱のほか、何度も咬まれてアレルギーの症状が出た報告があると説明しています。
応急処置|洗って、冷やす
日本中毒情報センターは、咬まれたら石けんと水でよく洗い、痛みがあれば冷やすよう案内しています。我慢できないほど強い痛みがある場合や、気分が悪い・吐く・頭が痛いなど全身の症状がある場合は受診してください。迷ったときは「中毒110番」に相談できます(大阪 072-727-2499、つくば 029-852-9999、一般向け・365日24時間)。
「お湯で温めるとよい」という話もありますが、日本中毒情報センターの奥村徹氏は、43℃ほどの温水で痛みが軽くなったという報告がこの方法の始まりだとしつつ、温めると血流が増えてアレルギー反応を悪くするおそれがあること、冷やしても温めても痛み止めの効果は同じくらいとされていることから、リスクが少なく簡単な冷却が無難だとしています。アンモニアを塗る方法は、効果がはっきりせず皮膚炎のおそれがあるため、今はすすめられていません。
アナフィラキシーに注意
衛生動物に掲載された報告(Satoら 2013年)によると、ムカデに咬まれた人の約1%にアナフィラキシーの症状が出るとされています。この報告では、2年前に咬まれたことのある男性が寝ている間に再び咬まれ、ショック状態になりました。以前にムカデやハチに刺された経験があることや、頭や顔を咬まれることがリスクとして挙げられています。
咬まれたあとに、全身のじんましん、息苦しさ、顔の腫れ、ふらつきなどが出たら、すぐに救急車を呼んでください。
家に入れない対策
名古屋市は、家のまわりの廃材や落ち葉を取り除くことを勧めています。川崎市は、床下や家のまわりに粉剤を帯状にまき、草刈りや落ち葉・廃材の片付けで日当たりをよくするよう案内しています。堺市は、粉状や粒状の薬剤を家のまわりに幅5〜10cmの帯状にまく方法を紹介しています。
家の中で見つけたときは、素手で触らないことが大切です(日本中毒情報センター)。堺市は割りばしでつかむかスプレーを使うよう案内しています。ただし名古屋市によると、大型の個体はスプレーが効くまで時間がかかり、川崎市はスプレーの直後は暴れて咬まれるおそれがあると注意しています。
咬まれた相談は夜と寝ている間に多いため、私たちは布団を床に直接敷かない、靴は履く前に中を確かめる、といった咬まれないための工夫もあわせておすすめしています。
よくある質問
- 咬まれたら温めるのと冷やすの、どちらがいいですか?
-
日本中毒情報センターは、石けんと水で洗い、痛みがあれば冷やすよう案内しています。温めるとアレルギー反応を悪くするおそれがあり、冷やす方が無難とされています。
- アンモニアは効きますか?
-
効果がはっきりせず、皮膚炎のおそれがあるため、今はすすめられていません(奥村2019)。
- 痛みはどれくらい続きますか?
-
通常は数時間以内に良くなります(日本中毒情報センター)。48時間以上続くことはまれです(MSDマニュアル)。
- 2回目に咬まれると危ないのですか?
-
何度も咬まれてアレルギーやショックになった報告があります(名古屋市・Satoら2013)。全身にじんましんや息苦しさが出たらすぐに受診してください。
- いつ、何時ごろに多いですか?
-
8〜9月、夜から明け方に多くなっています(日本中毒情報センター)。
まとめ
トビズムカデは、鳶色の頭と黒い胴が目印の大型のムカデです。夜に昆虫を狩り、メスは卵と子を抱いて守ります。8〜9月の夜に咬まれる例が多く、咬まれたら石けんと水で洗って冷やし、強い痛みや全身の症状があれば受診してください。家のまわりの落ち葉や廃材を片付け、薬剤を帯状にまいて侵入を防ぐことが対策の基本です。
出典
- 日本中毒情報センター「ムカデに注意しましょう!」(2024年9月、PDF)
- 名古屋市「ムカデ」
- 広島大学デジタル博物館「トビズムカデとアオズムカデの見分け方」
- 広島大学デジタル博物館「トビズムカデ 広島大学東広島キャンパス」
- 京都大学「トビズムカデとアオズムカデの足の色…」(2026年7月)
- 川崎市「ムカデ」(PDF)
- 堺市「ムカデ」
- 奥村徹「ムカデ咬傷の治療」ドクターサロン63巻9月号(2019、PDF)
- MSDマニュアル プロフェッショナル版「ムカデおよびヤスデ咬傷」
- Sato S. et al. (2013) 衛生動物64(4):223-226
- 中国科学院 ニュース(2018年1月25日)
- Siriwut W. et al. (2016) ZooKeys 590:1-124(学名の扱い)
