殺虫スプレーや蚊取り線香のパッケージを見ると、成分欄に「ピレスロイド(〇〇〇〇)」と書かれていることがよくあります。ゴキブリ用スプレー、蚊取り、くん煙剤、虫よけプレートと、家にある虫の薬を並べてみると、その多くにこの言葉が入っているはずです。
一方で「毎日蚊取りを焚いて人体に影響はないのか」「猫に殺虫剤はよくないと聞いたけれど本当か」「水槽のある部屋で使っていいのか」と気になって調べている方も多いと思います。
この記事では、害虫駆除を生業とする立場から、ピレスロイドとはどんな殺虫成分なのか、なぜ虫に効くのか、人・猫・魚への影響はどう考えればよいのかを、メーカーや公的機関の資料をもとにできるだけ正直に解説します。主な成分の一覧と、ピレスロイドが配合された代表的な市販商品もあわせて紹介します。
ピレスロイドとは|除虫菊から生まれた殺虫成分のグループ
ピレスロイドは、ひとつの成分の名前ではなく、殺虫成分の「グループ(系統)」の名前です。国立環境研究所の解説では、除虫菊に含まれる天然の殺虫成分(天然ピレトリン)と、これと化学構造のよく似た合成化合物(合成ピレスロイド)を総称してピレスロイドと呼ぶ、と説明されています。
成分表に「ピレスロイド(トランスフルトリン)」「ピレスロイド(d-T80-アレスリン)」のように、カッコ書きで具体的な成分名が添えられているのはこのためです。
ピレトリンとピレスロイドの違い
ピレトリンは、除虫菊(シロバナムシヨケギク)の花に含まれる天然の殺虫成分です。住友化学の技術資料によると、天然ピレトリンは6種類の殺虫成分から構成されており、昆虫に対する優れた殺虫活性と速効性(ノックダウン活性)、哺乳動物に対する高い安全性を持つ一方、光や酸素に対する安定性が低いため、用途が屋内用に限られていました。
そこで、ピレトリンの化学構造をお手本にして、より安定で効き目の強い化合物が人工的に作られてきました。これが合成ピレスロイドです。住友化学の資料では、半世紀以上にわたる構造変換研究によって、さまざまな特性を持つピレスロイド類が開発されてきたと述べられています。
つまり「ピレトリン=天然の元祖」「ピレスロイド=ピレトリンと、それをお手本に作られた合成成分を含むグループ全体」と整理すると分かりやすいと思います。
日本との関わりと開発の流れ
日本と除虫菊の関わりは深く、KINCHO(大日本除虫菊)によると、創業者の上山英一郎が明治19年(1886年)に除虫菊の種を入手し、明治23年(1890年)に除虫菊を使った蚊取り線香を発明したとされています。
合成ピレスロイドは、初期のもの(アレスリン、レスメトリン、フェノトリンなど)は光で分解されやすく、その後フェンバレレートやペルメトリンのように光に強い成分が登場して、農業や防除の分野にも使われるようになったと整理されています(庄野, 1984)。現在では、蚊取りやスプレーなどの家庭用、業者が使う防除用、農業用、シロアリ用と、幅広い場面で使われています。
ピレスロイドの作用機序|なぜ虫に効くのか
ピレスロイドは、虫の神経にあるナトリウムチャネルに作用します。神経は、細胞の膜にあるナトリウムチャネルが開いたり閉じたりすることで電気信号を伝えています。米国の獣医学マニュアル(Merck Veterinary Manual)では、ピレトリンとピレスロイドはナトリウムチャネルの開閉を遅らせ、その結果として神経細胞が過剰に興奮する、と説明されています。

殺虫剤の作用機構を整理した国際的な分類(IRAC分類)でも、ピレスロイドは「ナトリウムチャネルモジュレーター(グループ3A)」に分類されています。神経が正常に信号を伝えられなくなった虫は、まひして動けなくなります。
「ノックダウン」が速いのが最大の特徴
スプレーを吹きかけたハエや蚊がすぐに落ちる、この「すぐ動けなくなる」状態をノックダウンと呼びます。KINCHOはピレスロイドの特長として「微量でも害虫によく効き、速い効力を示す」ことを挙げています。製品評価技術基盤機構(NITE)の資料でも、ピレスロイド系は有機リン系やカーバメート系より速効性がある、と説明されています。
ただし、「ノックダウンさせる力」と「最終的に死なせる力」は、成分ごとに得意・不得意があります。KINCHOの業務用資料では、フタルスリンは「ノックダウン効果が高い」、レスメトリンは「特に致死効果に優れている」と書き分けられています。市販のスプレーで複数のピレスロイドが組み合わされていることが多いのは、こうした性質の違いを補い合うためです。
選択毒性|人や犬より虫に効きやすい理由
同じ神経に作用する成分なのに、なぜ人や犬にはそれほど効かないのか。Merck Veterinary Manualでは、哺乳類が昆虫より影響を受けにくい理由として、次の3点が挙げられています。
- 体内で速やかに代謝・排出される
- 体温が高い
- ナトリウムチャネルの感受性が昆虫より少なくとも1,000倍低い
アース製薬も、ピレスロイド系の殺虫成分は人を含む哺乳動物の体内では分解酵素の働きで速やかに代謝され、尿などで短期間に体外へ排出される、と説明しています。さらに、人は害虫に比べて体重がはるかに大きく、家庭用殺虫剤には極めて微量の殺虫成分しか使われていない点も安全性の根拠として挙げられています。
このように、虫にはよく効き、哺乳類には効きにくいという性質を「選択毒性」といいます。ピレスロイドが家庭用殺虫剤の主役になっているのは、この選択毒性の高さによるところが大きいといえます。
ピレスロイドの特徴|速効性・忌避・追い出し
KINCHOは、ピレスロイドの特長として「速効性」「忌避効果」「追い出し効果」「安全性」の4つを挙げています。速効性と安全性は前の章で触れたので、ここでは残りの2つを見ていきます。
忌避効果|虫が嫌がって近づかない
ピレスロイドには、虫を殺すだけでなく、薬剤の濃度が薄い場所では虫が嫌がって近づかないという性質があります。KINCHOは、蚊取り線香で蚊が近づいて来ないのはこの忌避効果によるものと説明しています。玄関や窓辺に吊るす虫よけ製品や、蚊取り製品の効能に「忌避」「侵入阻止」と書かれているのは、この性質を利用したものです。
追い出し(フラッシング)効果
KINCHOによると、家具の後ろに隠れているゴキブリにピレスロイドを噴射すると、明るい所に飛び出してきて死ぬ、という作用もあります。隙間に潜んだゴキブリを表に出す性質で、業者の世界では「フラッシング」とも呼ばれます。
ただし、追い出しはあくまで「見えている場所に出す」作用です。巣ごと減らしたいときは、食べさせて効かせるフィプロニルなどのベイト剤(毒餌)と役割を分けて考えるのがおすすめです。
揮発しやすい成分は「置くだけ・吊るすだけ」に
ピレスロイドの中には、常温で揮発しやすい成分もあります。住友化学によると、メトフルトリンは極めて高いノックダウン活性と常温蒸散活性を兼ね備えており、加熱を必要としないファン式やペーパー製剤にも応用できるとされています。NITEの資料でも、トランスフルトリンとメトフルトリンは揮散性が高く殺虫効果も優れる成分として紹介されています。電池式の蚊取りや吊り下げタイプの虫よけが成り立つのは、こうした成分のおかげです。
ピレスロイドの主な成分一覧
家庭用・防除用でよく使われるピレスロイド(およびピレスロイドに近い成分)を一覧にしました。特徴はKINCHO・住友化学・NITEの資料、用途例は環境省「化学物質情報ケミココ」に掲載されている例をもとにしています。
| 成分名 | 主な特徴 | 主な用途・剤型(例) |
|---|---|---|
| ピレトリン(天然) | 除虫菊由来。速効性に優れ、広範囲の害虫に有効。光・酸素に弱い | 蚊取線香、不快害虫の忌避・殺虫剤 |
| アレスリン類 | ハエ・蚊に特効を示し、速効性が非常に高い | 蚊取線香、電気蚊取 |
| フタルスリン | 速効性に優れ、ノックダウン効果が高い | 不快害虫用殺虫剤、殺虫スプレー |
| ペルメトリン | 耐光性があり、残効性が非常に高い | 衛生害虫・不快害虫用殺虫剤、園芸用殺虫剤 |
| フェノトリン | 耐光性に優れ、速効性と残効性を兼ね備える | 衛生害虫・不快害虫用殺虫剤 |
| シフェノトリン | ゴキブリ・ダニ向けの製品に使われる | ゴキブリ・ダニ駆除剤、くん煙剤 |
| プラレトリン | ハエ・蚊に特効を示し、速効性に優れる。ハチ用エアゾールにも使われる | 不快害虫用殺虫剤、電気蚊取 |
| イミプロトリン | ゴキブリに対して極めて高いノックダウン活性 | ゴキブリ用殺虫スプレー |
| トランスフルトリン | 揮散性が高い | 電気蚊取、吊り下げ・設置型の虫よけ |
| メトフルトリン | 常温で揮散し、蚊に対する効果に優れる | 電気蚊取、ファン式・電池式蚊取り |
| エトフェンプロックス | エーテル結合を持つ「ピレスロイド様」の成分(擬ピレスロイド) | 衛生・不快害虫用殺虫剤、シロアリ薬剤、農薬 |
| シラフルオフェン | 残効性が高い | カメムシ用殺虫剤、シロアリ薬剤 |
| ビフェントリン | シロアリ用途で使われる | シロアリ薬剤 |
同じピレスロイドでも、「すぐ落とす」のが得意な成分、「長く効く」のが得意な成分、「揮発して空間に広がる」のが得意な成分と、性格はかなり違います。製品を選ぶときは「ピレスロイド配合かどうか」だけでなく、カッコ内の成分名まで見ると、その商品の狙いが見えてきます。
ピレスロイドは人体に影響がある?
結論からいうと、家庭用殺虫剤に使われる量のピレスロイドについては、人を含む哺乳類は体内で速やかに分解・排出するため、安全性が高い成分とされています(アース製薬、KINCHO)。MSDマニュアル家庭版でも、ピレスロイド系がめったに問題を引き起こさないことが書かれています。
ただし「影響がまったくない」わけではありません。MSDマニュアル家庭版では、ピレトリン系がくしゃみ、涙、せき、ときには呼吸困難を引き起こすことや、アレルギー反応を引き起こすことがあると説明されています。農業用など濃度の高い製剤では、日本中毒情報センター監修の資料に、重症例でけいれんや呼吸困難が起こり得ることが記載されています。
家庭で使うときに気をつけたいのは、次のような基本です。
- スプレーは人や食品、食器に直接かけない
- 蚊取り線香は換気し、風上に置く(KINCHOのQ&Aでは、妊婦・乳幼児がいる場合も換気の良い所で風上に置いて使うよう案内されています)
- くん煙剤を使った後は、表示どおりにしっかり換気してから部屋に入る
- 使用中に気分が悪くなったら使用をやめ、製品を持って医師に相談する
「ピレスロイドだから安心」と決めつけず、製品ごとの使用上の注意を読むことが一番の安全対策です。
ピレスロイドと猫・犬・魚|ペットへの影響
猫がピレスロイドに弱いとされる理由
「ピレスロイド 猫」で調べる方が多いのは、猫がピレスロイドに弱いという話が知られているからです。Merck Veterinary Manualでも、ペットの中では猫がピレスロイドの毒性に対してより敏感だと書かれています。
理由として挙げられているのが、肝臓でのグルクロン酸抱合という解毒の仕組みです。犬用ノミ・マダニ駆除薬「フォートレオン」(エランコ)の製品情報では、猫は肝臓でのグルクロン酸抱合能が遺伝的に低いため代謝物が蓄積しやすく、蓄積が過剰になると中毒症状が出る可能性がある、と説明されています。米国ASPCAの獣医師による資料でも、猫がこの代謝に関わる酵素が不足していることが、ペルメトリンへの感受性の高さを説明する可能性があると述べられています。
特に注意したいのは「犬用のペルメトリン製剤」
猫の中毒で特に問題になるのは、家庭用殺虫スプレーよりも、高濃度のペルメトリンを含む犬用のスポット剤(首筋に垂らすノミ・マダニ薬)です。
- 埼玉県獣医師会は、ペルメトリンを含む犬用スポットタイプのノミ・マダニ駆除剤を誤って猫に使うと、重い神経症状を起こすと注意喚起しています。
- 前述のフォートレオンは1mL中にペルメトリン500mgを含む犬専用の製品で、メーカーは「猫には、投与しないで下さい」と明記しています。
- ASPCAの資料では、米国の犬用スポット剤には45〜65%のペルメトリンを含むものがあると紹介されています。
犬と猫を一緒に飼っている家庭では、犬用の薬を猫に使わないことはもちろん、動物病院で犬と猫それぞれに合った薬を相談するのが安心です。
家庭用の殺虫剤・蚊取りは猫がいても使える?
家庭用の蚊取りやスプレーについては、メーカーの案内は製品ごとに異なります。たとえばKINCHOの「金鳥の渦巻」のQ&Aでは、犬・猫・ハムスター・小鳥などのペットのいる部屋でも使えるが、十分に換気して使用するよう案内されています。一方、スプレーは「小鳥などのペット類」にかからないように、くん煙剤はペットを部屋の外に出すように、とそれぞれの使用上の注意に書かれています。
猫は体をなめて毛づくろいをするので、スプレーが毛にかかったり、薬剤が付いた床をなめたりしないよう気をつけてください。使用後に猫の様子がおかしい(よだれ、震え、ふらつきなど)と感じたら、使った製品を持って動物病院に相談しましょう。
魚・水生生物には強い毒性がある
ピレスロイドでペット以上に注意が必要なのが、魚です。KINCHOは、ピレスロイドは魚類への毒性が強いため、エアゾールを使うときは水槽にカバーをするか部屋の外に出すなどの対策が必要だと説明しています。
実際、ペルメトリン0.2%の園芸用殺虫剤「園芸用キンチョールE」の注意書きには「強い魚毒性があるので、使用にあたっては十分注意してください」と明記されています。蚊取り線香についても、KINCHOのQ&Aでは、魚類(熱帯魚や金魚など)、両生類、爬虫類を飼育している部屋では使用しないよう案内されています。
アクアリウムや両生類・爬虫類を飼っている家庭では、ピレスロイド配合の製品を使う部屋を分けるか、くん煙剤であれば説明書どおりにエアーポンプを止めて水槽を完全に密閉するなど、製品の指示に従ってください。
ピレスロイドが効かない?|抵抗性の問題
長年、世界中で使われてきたピレスロイドには、抵抗性(薬剤が効きにくくなった虫)の問題があります。抵抗性の仕組みとしては、神経(ナトリウムチャネル)が薬剤に反応しにくくなる「kdr型」と呼ばれるタイプや、体内で薬剤を分解する能力が高まるタイプが知られています。
チャバネゴキブリ
飲食店やビルで問題になるチャバネゴキブリでは、ピレスロイド系などの古くから使われている成分について、度重なる使用で抵抗性を獲得した事例が多く報告されていると、日本ペストコントロール協会の機関誌で解説されています。特に飲食店の厨房の個体群でこの傾向が強いとされ、効果が見られない場合は異なる成分の薬剤に切り替えることが勧められています。海外でも、米国の集合住宅で抵抗性のチャバネゴキブリが出現し、駆除の成功率が大きく下がった報告があります(Zhai & Robinson, 1991)。
アカイエカなどの蚊
蚊でも抵抗性は確認されています。国立感染症研究所などのグループが日本のアカイエカ群(アカイエカ、チカイエカ、ネッタイイエカ)を調べた研究(Kasai et al., 2007)では、ボウフラ対策に使われるエトフェンプロックスに対する抵抗性が各地で見つかり、一部の系統はペルメトリンやフェノトリンなど他のピレスロイドにも強い抵抗性を示しました。抵抗性の要因として、ナトリウムチャネルの感受性低下と、薬剤を分解する酵素の働きの強化が考えられています。
トコジラミ・アタマジラミ
国立健康危機管理研究機構の感染症情報では、トコジラミについて2010年前後には全国各地でピレスロイド抵抗性が確認されていたこと、アタマジラミでも抵抗性個体が各地で見つかっていることが報告されています。トコジラミに市販のスプレーが効きにくいと感じる場合、この抵抗性が関わっている可能性があります。
「スプレーを何本使っても減らない」というときは、量を増やすより、成分や方法を変えることを考えたほうが合理的です。
ピレスロイドと他の成分の違い
ピレスロイドの立ち位置をつかむために、ほかの代表的な殺虫成分と比べてみます。作用の仕組みはIRAC分類(作用機構分類)にもとづいています。

| 成分(系統) | 作用の仕組み | 得意なこと | 家庭での主な製品 |
|---|---|---|---|
| ピレスロイド | ナトリウムチャネルに作用(IRAC 3A) | すぐ落とす速効性、忌避・追い出し | 殺虫スプレー、蚊取り、虫よけ、くん煙剤 |
| フィプロニル(フェニルピラゾール系) | GABA作動性塩素イオンチャネルに作用(IRAC 2B) | 食べさせて巣の仲間にも広げる | ゴキブリ・アリ用ベイト剤 |
| ネオニコチノイド系 | ニコチン性アセチルコリン受容体に作用(IRAC 4A) | 浸透移行性が高く、残効が長い | ベイト剤、シロアリ薬剤など |
| ホウ酸 | 食べて効く毒餌 | じわじわ効く、安価 | ホウ酸団子 |
ピレスロイド vs フィプロニル
ピレスロイドが「目の前の虫をすぐ落とす」成分なのに対し、フィプロニルは「食べさせて、巣に戻ってから効かせる」成分です。作用する場所も、ピレスロイドはナトリウムチャネル、フィプロニルはGABA作動性塩素イオンチャネルと異なります。
ピレスロイドには忌避・追い出し効果があるため、ゴキブリが寄ってきて食べることで効くベイト剤とは役割が正反対です。「見つけた1匹はスプレー、巣ごと減らすのはベイト剤」と使い分けるのが基本です。また、ピレスロイドに抵抗性を持つチャバネゴキブリに対しては、作用の仕組みが違うフィプロニルのような成分に切り替える意味があります。
ピレスロイド vs ネオニコチノイド
ネオニコチノイド系は、ニコチン性アセチルコリン受容体に作用する成分です。IRAC分類の資料では、浸透移行性が高く残効が長いことが特徴とされています。農業では作物に吸わせて害虫を防ぐ使い方、家庭や防除の分野ではベイト剤やシロアリ薬剤などに使われます。
「すぐ効く・虫を寄せつけない」のがピレスロイド、「じっくり長く効く」のがネオニコチノイド、というイメージです。作用の仕組みが違うので、ピレスロイドが効きにくい虫に対して選択肢になることがあります。
ピレスロイド vs ホウ酸
ホウ酸団子のホウ酸は、ゴキブリに食べさせて効かせる昔ながらの成分です。スプレーのような即効性はなく、効果が出るまでに日数がかかります。
ピレスロイドとは性格がまったく違い、ホウ酸は神経に作用する成分ではありません。そのため、ピレスロイド抵抗性の有無に関係なく使える点は利点ですが、子どもやペットの誤食には特に注意が必要です。
エトフェンプロックスなど「擬ピレスロイド」という分類
ピレスロイドとは異なる化学構造なのに、よく似た働きをする成分もあります。代表がエトフェンプロックスです。三井化学が開発した成分で、技術資料では「炭素、水素及び酸素だけからなり、エーテル結合を有する特異的な化学構造のピレスロイド様殺虫剤」と説明されています。このため「擬ピレスロイド」と呼ばれることがありますが、IRAC分類ではピレスロイド(3A)のグループに入っています。
三井化学クロップ&ライフソリューションによると、エトフェンプロックスは人畜への毒性が低いことが特徴で、農業用のほか、ペットのノミ・ダニ防除や家庭用殺虫剤などにも使われています。成分表で見かけたら、ピレスロイドの仲間と考えて差し支えありません。
環境・規制の話
KINCHOは、ピレスロイドは光・空気・熱に触れると他の殺虫剤よりも分解しやすく、環境に配慮した成分だと説明しています。その一方で、魚や水生生物への毒性は強く、園芸用キンチョールEには「強い魚毒性」に加えて蚕への毒性の注意も記載されています。屋外で使うときは、池や水路、養蚕の近くでは特に注意が必要です。
家庭用の殺虫剤は、製品によって「医薬品」「防除用医薬部外品」として扱われています。たとえばアースレッドWは第2類医薬品、ゴキジェットプロやアースジェットは防除用医薬部外品です。一方、庭木や草花に使う園芸用キンチョールEは農林水産省に登録された農薬です。同じ成分でも用途ごとに承認・登録が異なるため、用途に合った製品を選んでください。
業者が使う薬剤にもピレスロイド系は多くありますが、希釈や散布方法に専門知識が必要なため、一般の方は市販の家庭用製品を表示どおりに使うのが基本です。
ピレスロイドが配合された代表的な市販商品
ここでは、メーカー公式の製品ページで有効成分を確認できた商品だけを紹介します。同じブランドでも品番によって成分が違うことがあるので、購入時はパッケージの成分表示もあわせて確認してください。
ゴキブリ・不快害虫用の殺虫スプレー
ゴキジェットプロ 450mL 2本パック(アース製薬)
有効成分はイミプロトリン0.476w/v%(防除用医薬部外品)。ゴキブリへのノックダウン活性が高いイミプロトリンを使った、ゴキブリ専用のスプレーです。
アースジェット 450mL(アース製薬)
有効成分はd-T80-フタルスリン0.465w/v%、フェノトリン0.17w/v%(防除用医薬部外品)。ハエ・蚊・ゴキブリ・ノミ・トコジラミ・イエダニ・マダニに使える、2種類のピレスロイドを組み合わせた定番のスプレーです。
ムカデキンチョール 行動停止プラス(KINCHO)
有効成分はピレスロイド(シフルトリン、d-T80-フタルスリン、トランスフルトリン)。ムカデ・ヤスデ・ゲジゲジ向けのスプレーです。ムカデ・ヤスデの対策に使われます。
カメムシキンチョール(KINCHO)
有効成分はシラフルオフェンとピレスロイド(プラレトリン)。カメムシのほか、ウンカ・ヨコバイにも使えるスプレーです。
蚊取り・虫よけ
金鳥の渦巻(KINCHO)
有効成分はピレスロイド(dl・d-T80-アレスリン)(防除用医薬部外品)。効能は蚊成虫の駆除・忌避・侵入阻止。除虫菊から始まった蚊取り線香の代表的な商品です。
アースノーマット 取替えボトル60日用 無香料(アース製薬)
有効成分はメトフルトリン148.5mg/本(防除用医薬部外品)。液体電子蚊取りの取替えボトルで、効能は蚊成虫の駆除・侵入阻止です。
虫コナーズプレミアム プレートタイプ(KINCHO)
有効成分はピレスロイド(トランスフルトリン)(防除用医薬部外品)。吊るして使うタイプで、効能は蚊成虫の侵入阻止または忌避。366日用・250日用・150日用があります。
くん煙剤
アースレッドW 6〜8畳用(アース製薬)
有効成分はメトキサジアゾン(オキサジアゾール系)12.0%、d・d-T-シフェノトリン(ピレスロイド系)3.0%(第2類医薬品)。ゴキブリ、屋内塵性ダニ類、イエダニ、ノミ、トコジラミ、ハエ・蚊成虫を部屋ごと駆除するくん煙剤で、ピレスロイドと別系統の成分を組み合わせています。
園芸用(ペルメトリン配合)
園芸用キンチョールE(KINCHO)
有効成分はペルメトリン0.2%(農林水産省登録 第15975号)。ケムシ類やカミキリムシ類など、樹木・草花の害虫に使う園芸用のスプレーです。メーカーはJA(農業協同組合)での購入を案内しています。
市販品で効かないときはプロの施工も選択肢
ピレスロイドは即効性に優れた成分ですが、見えている虫を落とすのは得意でも、隠れている巣や発生源までなくすのは得意ではありません。また、チャバネゴキブリやトコジラミのように抵抗性が広がっている虫では、市販のスプレーを使い続けても数が減らないことがあります。
プロの駆除業者は、虫の種類と発生状況を確認したうえで、ベイト剤、残効性のある薬剤、物理的な侵入経路の封鎖などを組み合わせて対策します。抵抗性が疑われる場合には、作用の仕組みが違う成分に切り替えることもできます。「何本スプレーを使ってもまた出る」という段階なら、一度相談してみる価値はあります。
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よくある質問
Q. ピレスロイドは人体に害はありませんか?
A. 哺乳類は体内で速やかに分解・排出するため、家庭用の量では安全性が高いとされています。ただし、くしゃみやせき、アレルギー反応が起こることはあるので、換気など使用上の注意を守ってください。
Q. 猫がいる家で蚊取り線香や殺虫スプレーを使っても大丈夫ですか?
A. 猫はピレスロイドに敏感だとされ、特に高濃度のペルメトリンを含む犬用ノミ・マダニ薬は猫に使わないでください。蚊取り線香は、KINCHOのQ&Aでは十分に換気すればペットのいる部屋でも使えるとされています。スプレーやくん煙剤は各製品の注意書きに従い、猫に直接かからないようにしてください。
Q. 水槽がある部屋で使ってもいいですか?
A. ピレスロイドは魚への毒性が強い成分です。水槽にカバーをする、くん煙剤ではエアーポンプを止めて密閉するなど、製品ごとの指示に従ってください。蚊取り線香は、魚類を飼育している部屋では使用しないようメーカーが案内しています。
Q. ピレトリンとピレスロイドは何が違うのですか?
A. ピレトリンは除虫菊に含まれる天然の殺虫成分です。ピレスロイドは、ピレトリンと、ピレトリンをお手本に人工的に作られた合成成分をまとめた呼び名です。合成ピレスロイドは、光や空気に弱いピレトリンの弱点を改良する形で開発されてきました。
Q. スプレーをかけたのにゴキブリが死ななかったのはなぜですか?
A. ピレスロイドの中には「すぐ動けなくする(ノックダウン)」のが得意な成分と、「最終的に死なせる」のが得意な成分があり、かかった量が少ないとノックダウンしても回復できる可能性があります。また、チャバネゴキブリではピレスロイドへの抵抗性が多く報告されています。何度も効かないと感じる場合は、ベイト剤など別の成分の製品への切り替えを検討してください。
まとめ|ピレスロイドは「すぐ効く・寄せつけない」を担う成分
- ピレスロイドは、除虫菊の天然成分ピレトリンと、それをお手本にした合成成分をまとめた呼び名
- 虫の神経のナトリウムチャネルに作用し、すぐに動けなくする速効性が最大の特徴。忌避・追い出し効果もある
- 人を含む哺乳類は速やかに分解・排出するため安全性が高いとされるが、使用上の注意は必ず守る
- 猫はグルクロン酸抱合が弱く、ピレスロイドに敏感。特に犬用のペルメトリン製剤は猫に使わない
- 魚・水生生物には強い毒性があるので、水槽まわりでは特に注意
- チャバネゴキブリ、アカイエカ群、トコジラミなどで抵抗性が報告されている。効かないときは成分を変える
ピレスロイドは、100年以上前の除虫菊から続く、日本の暮らしに最もなじみのある殺虫成分です。性質と弱点を知ったうえで、ベイト剤など他の成分ともうまく使い分ければ、家の害虫対策の心強い味方になります。
