ゴキブリ駆除の定番として100年以上使われ続けている「ホウ酸団子」。市販の「ゴキブリキャップ」のような製品もあれば、自分で手作りする方も多い、昔ながらの毒餌剤です。一方で「なぜホウ酸でゴキブリが死ぬの?」「犬や猫、子どもがいても大丈夫?」「本当に効くの?増えたりしない?」と疑問に思う方も多い成分です。
この記事では、害虫駆除を生業とする立場から、ホウ酸がどういう成分で、なぜ虫に効くのか、安全性はどう考えればよいのか、自作する場合の作り方や即効性のあるフィプロニルとの違いまで、正直に解説します。
ホウ酸(英: Boric Acid)とは|どんな成分か
ホウ酸(英: Boric Acid)は、ホウ素という元素からできたオキソ酸で、無色・白色の結晶または粉末です。温泉にも含まれる比較的身近な物質で、殺菌効果があることから、目の洗浄用の医薬品や消毒、化粧品の防腐剤などにも使われてきました。殺虫剤としての歴史は古く、アメリカで100年以上前に毒餌として製品化されたのが始まりとされています。
このホウ酸を、ゴキブリの好物である小麦粉・砂糖・玉ねぎなどに混ぜて団子状にしたものが「ホウ酸団子」です。日本では「Housan-Dango」として海外にも知られるほど定着した駆除法です。
ホウ酸はなぜゴキブリに効くのか
ゴキブリがホウ酸団子を食べると、脱水症状を起こして死に至ります。体内の水分が失われ、乾いたカラカラの状態で死んでいることが多いのはこのためです。神経の麻痺や、消化器系・さまざまな内臓への総合的なダメージが関わっているとされますが、分子レベルでの正確な作用の仕組みは、実はまだ完全には解明されていません。
昆虫と哺乳類で効き方が違う理由
ホウ酸が「ゴキブリにはよく効き、人や犬・猫などの哺乳類には比較的安全」とされるのは、体内での代謝や排出の仕組みが大きく異なるためです。
人や犬・猫などの哺乳類は、肝臓で代謝し、腎臓からホウ酸を比較的速やかに体外へ排出できます。一方、ゴキブリなどの昆虫には哺乳類のような肝臓や腎臓はなく、脂肪体やマルピーギ管という器官が代謝や排出を担っています。
ホウ酸を摂取したゴキブリは十分に処理・排出できず、体内にダメージが蓄積していきます。その結果、代謝機能や水分調節機能が徐々に障害され、脱水症状を起こして死に至ると考えられています。
このような仕組みの違いから、ホウ酸は100年以上にわたってゴキブリ駆除剤として利用されてきました。ただし、人や犬・猫でも大量に摂取すれば中毒を起こす危険があるため、子どもやペットの手が届かない場所で使用することが重要です。
抵抗性がつきにくいという強み
フィプロニルやヒドラメチルノンといった神経系・代謝系の成分は、長く使い続けるとゴキブリが抵抗性(耐性)を持って効きにくくなることがあります。ところがホウ酸の場合、抵抗性を獲得するには「腎臓を手に入れる」ような根本的な進化が必要になるため、現実的には耐性がつきません。100年使われてもなお有効であり続けているのは、この理由によります。また、ホウ酸は天然の無機物で、日光・水・微生物などで分解されないため、殺虫力が長期間持続するのも特徴です。
- 抵抗性(耐性)がつきにくく、長期間使える
- 分解されにくく殺虫力が長持ちする
- 脱水して死ぬため死骸が水回りに集まり、家中に散らばりにくい
- 安価で、自作もできる
効果が出るまでの時間|即効性はない
ホウ酸団子は遅効性です。ゴキブリが食べてから死ぬまで、早くて半日〜数日、遅いものでは1週間〜半月ほどかかります。「置いてすぐ効く」ものではないため、目の前のゴキブリを今すぐ退治したい場合には向きません。その代わり、時間をかけて確実に効き、設置しておくことで継続的な駆除・予防が期待できます。
なお、効いてくるまでの間にゴキブリが仲間に「危険サイン」を出し、他の個体が家に近づかなくなるという説もありますが、これははっきり証明されたものではありません。過度な期待は禁物です。
ホウ酸団子の安全性|犬・猫・人体・子どもへの影響
ホウ酸団子は置いておくだけ・塗るだけのタイプで、誤って口に入れない限り、人体への影響はほとんどないといえます。ただし、誤飲・誤食には厳重な注意が必要です。
人体・子どもへの影響
人はホウ酸を腎臓から排出できますが、大量に摂取すれば中毒の危険があります。日本中毒情報センターによれば、重篤な症状や死亡は急性摂取ではまれとされる一方、乳児・小児は成人より中毒を起こしやすいとされています。実際に、大量摂取による死亡例も報告されています。体重の軽い子どもほどリスクが高く、症状としては嘔吐・下痢、重い場合は脱水や腎機能障害が起こり得ます。メーカー(タニサケ)の目安では、危険とされる摂取量は子どもで約5g、大人で15〜30g以上とされ、同社のゴキブリキャップに換算すると幼児なら団子1個、大人なら3〜6個以上が危険の目安とされています。小さなお子さまがいる家庭では、ホウ酸団子の使用や自作は控えるか、手の届かない場所での厳重な管理が必要です。
犬・猫・ペットへの影響
犬や猫も哺乳類なのでホウ酸を排出できますが、団子そのものを食べてしまうと中毒の危険があります。とくにホウ酸団子は小麦粉や砂糖・玉ねぎなど「食べ物の匂い」で誘引する設計のため、ペットが興味を示しやすい点に注意が必要です。誤食防止容器に入った製品を選び、ペットが絶対に届かない場所に設置してください。
万が一、中身を口にしてしまった場合は、自己判断で無理に吐かせたり大量の飲み物を与えたりせず、製品名や摂取した量が分かるものを持参のうえ、速やかに医療機関または動物病院へ相談してください。症状がなくても、乳幼児やペットでは念のため受診をおすすめします。
こんな家庭は特に注意
・小さなお子さまがいる(使用・自作を控えることも検討)
・犬や猫を室内で飼っている(食べ物の匂いで誘引されやすい)
・誤飲を防ぐため、必ず誤食防止容器入りの製品を選ぶ
ホウ酸団子の作り方|自作する場合
ホウ酸団子は材料さえそろえば自作できます。市販品より安く大量に作れ、ホウ酸の濃度を自分で調整できるのが利点です。ホウ酸はドラッグストアやネット通販で入手できます。
基本の材料
ホウ酸濃度20%前後・約15個分
- ホウ酸 20g
- 小麦粉 70g
- 玉ねぎ(みじん切りまたはすりおろし)60g
- 砂糖
- 小さじ2杯牛乳または水 適量
ホウ酸団子の作り方の手順
- 牛乳以外の材料をすべて混ぜ合わせる
- 牛乳を少しずつ加え、耳たぶ程度の固さになるまで練り、直径2〜3cmに丸める
- カビ・腐敗を防ぐため、2〜3日(しっかり乾かすなら1週間目安)天日干しする。表面に白い粉が出れば完成
ホウ酸の濃度は20%前後が適量です。効果を上げようと増やしすぎると、薬剤の匂いが好物の匂いを上回ってゴキブリが寄りつかなくなるため逆効果です。作業時はゴム手袋を使い、ホウ酸に直接触れないようにしてください。天日干し中もペットや子ども、野鳥などの誤食を防ぐ工夫(ネットをかけるなど)が必要です。設置後は2〜3カ月に1回を目安に取り替えます。
ホウ酸が配合された代表的な市販品
「自作は手間」という方には、誤食防止容器入りの市販ホウ酸団子が手軽です。代表的な製品を挙げます。
ゴキブリキャップ(タニサケ)
玉ねぎで誘引する元祖ホウ酸団子。1986年発売のロングセラーで、ホウ酸系毒餌剤として高いシェアを持つ。
団子1個10gの約半分がホウ酸という重量タイプ。誤食防止の収容ケース入り
ゴキブリキャップP1(タニサケ)
玉ねぎではなくピーナッツで誘引するタイプ。設置後3〜7日と、ホウ酸団子としては比較的早く効果が出るのが特徴
ホワイトキャップ ゴキブリホウ酸ダンゴ(アース製薬)
ブラックキャップ(フィプロニル)の姉妹品で、こちらは有効成分がホウ酸。
玉ねぎ・ゴマ・ピーナッツの天然由来誘引剤を配合。「黒は苦手だが白なら置きやすい」という声に応えた製品
ゴキブリホウ酸ダンゴ コンクゴキンジャム(アース製薬)
ホウ酸35%配合と高濃度のジャムタイプ。誤食を防ぐ苦味成分(安息香酸デナトニウム)入り
ホウ酸団子とフィプロニル系(ブラックキャップ)の違い
同じ「置き型の毒餌剤」でも、ホウ酸とフィプロニル(ブラックキャップなどの成分)では性格が大きく異なります。
速さ:フィプロニルは約1日と速効性が高く、ホウ酸は半日〜半月と遅効性です。今すぐ数を減らしたいならフィプロニル系が向きます。
抵抗性:フィプロニルは長期使用で抵抗性がつくことがありますが、ホウ酸は耐性がつきにくく長期の予防に向きます。
使い分け:急場はフィプロニル系で一気に叩き、その後の予防・維持にホウ酸を置く、という組み合わせも有効です。
※フィプロニル系のベイト剤を置いた周辺に、ホウ酸団子やスプレー・くん煙剤を併用すると、薬剤を嫌ってゴキブリが餌に寄りつかなくなることがあります。毒餌剤同士・毒餌と他剤の「重ね置き」は避けるのが基本です。

ホウ酸団子で解決しないとき
ホウ酸団子は食べさせてこそ効くため、効果は基本的に屋内に限られ、卵には効きません。とくに飲食店などで大量発生するチャバネゴキブリは、団子を置いた程度では絶滅させるのが難しいケースがあります。冷蔵庫のモーター内部や食洗機の機械内など、温かく湿った隠れ家にベイト剤を的確かつ大量に仕込む必要がある場合は、専門業者の領域です。設置後しばらくしても数が減らないときは、プロへの相談をおすすめします。
よくある質問
まとめ|ホウ酸団子は遅いが確実な定番
ホウ酸団子は、排出器官を持たない昆虫の体内にホウ酸が蓄積して効くため、抵抗性がつきにくく100年以上使われ続けている定番の駆除法です。即効性はなく効果が出るまで数日〜半月かかりますが、長期間置いて予防的に使うのに向いています。哺乳類はホウ酸を排出できるため比較的安全とはいえ、誤飲・誤食には注意が必要で、特に小さなお子さまやペットのいる家庭では設置場所と管理に気を配りましょう。
「すぐ効く方がいい」「市販品と自作どちらがいいか」を具体的に知りたい方は、用途別・成分別の記事もあわせてご覧ください。
※本記事は一般的な情報提供を目的としたものです。製品の使用にあたっては必ず各製品の表示・説明書に従ってください。誤飲時は速やかに医療機関へご相談ください。
